引きこもりの解決に必要なこととは―支援を行って感じたリアルな話

弊社代表の中川健司は、これまで引きこもりを抱える家族から寄せられた数多くの相談にのってきました。そして現場に赴き引きこもりの「引き出し」を行い、自立への道をサポートしてきました。

年々増えている「引きこもり」について、解決のプロとしての考察とご家族にぜひ知っていただきたいことをご紹介いたします。

家族からの相談

1.引きこもりの親に共通していること

  • 「ありきたりな言葉がけ」など小手先ともとれる方法で解決を考えている。
  • 「今の日常を壊さない程度で」対処したいと考えている。

私の見解では、親は子供の引きこもりを重く受け止めておらず危機感を募らせていないと理解しました。
閉ざされたドア
引きこもりが長期化すればするほど社会復帰が困難になるといった構造を親は学ばなければなりません。「子供の自主性に任せる」といった一見子供の人格を尊重するような言葉で、現実は「子供の人生を台無しにしている」無責任な親が多いというのが実感です。

口では、「あなたのためを思って」と言いながら、心の底では、「世間体が保てて問題さえ起こさないのであれば」「親の暮らしを脅かさないのであれば」このままで良いと考えていると感じます。

2.引きこもりが長期に及ぶと脳へのダメージが深刻化する

引きこもりは、人生において時間を浪費するばかりではなく、脳に深刻なダメージを与えます。長く引きこもっていると、思考停止が常態化し、考える機能が低下していきます。1)

考える機能が低下すると、それにまつわる記憶する、アイデアを出す、感情をコントロールする、応用する、コミニュケーションする、やる気を出すなどの力も低下し、脳の前頭前野が委縮し始めるのです。つまり、理性の崩壊です。

前頭前野と扁桃体

そのため、理性を司る前頭前野と感情を司る偏桃体との均衡が保てなくなり、思考が偏桃体に傾倒した不安や恐怖に支配されるようになってしまいます。この偏桃体は不安や恐怖によって活性化することがわかっており、過剰に増幅した「病的な不安」は引きこもりを更に長期化させます。

引きこもりは思考を硬直させ、恒常的に思考が不安や恐怖、怒りに支配されているため、自己防衛本能が過剰に働くこととなり、結果、攻撃性が高くなるのです。

3.引きこもりが長期化し会話がなくなると

ひきこもりが長期化すると家族との間に会話がなくなってきて、存在するのは、家族愛ではなく親子間でありながらも「腹の探り合い」となります。2)

ひきこもっている本人は、「自分というのはどうしようもない穀(ごく)つぶしで生きる価値がない人間だ」くらいのことは考えています。「こんな自分を親は憎んでいる。早く追い出したいと思っているはずだ」と疑念を抱いています。

じゃあいつ追い出されるんだろうかと思考が煮詰まってきて、極端な場合は勘ぐり、妄想、疑念が膨張し、追い出される前に殺ってしまえと殺意に代わるのです。

引きこもりを抱える家庭では、「いずれ追い出される」とおびえる本人と、「ずっとすねをかじられる」とおびえる親という組み合わせが、一番ありふれたパターンということです。

引きこもりが長期化し会話が途絶えると、こういう誤解、勘ぐり、妄想、疑念が思考を支配し、悲劇を生むことになります。

4.誤解・妄想・勘ぐり・疑念が引き起こす悲劇

現場に急行するパトカー

元農水事務次官長男殺害事件

2019年6月1日東京都練馬区で元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(76)が長男の英一郎さん(44)刃物で刺した事件。

事件当日、容疑者の自宅近くでは、小学校の運動会が開催されていた。長男が「運動会がうるさい」と言い出し、熊沢容疑者がたしなめようとしたところ、「ぶっ殺すぞ」と反発。小学校に乗り込むという言動があり、犯行に及んだという。これまで長男は仕事をせず、引きこもっていた。機嫌が悪いと、家族に暴力をふるっていた。熊沢容疑者は自分や妻が殺されるかもと危機を感じていた。

川崎であった事件(川崎市登戸通り魔事件)が頭に浮かび、「もし子供に危害が及んでしまったらとりかえしがつかない」「うちも切れやすい性格。万が一、事件を起こしたら…」と刃物で長男を刺したと供述した。刺し傷が10か所以上で、腹や胸に集中していることから、かなりの覚悟を持っての犯行に及んだもよう。

平塚遺体遺棄事件

2022年12月13日神奈川県平塚市の住宅で成人の男女2人の遺体が見つかった。県警は14日夜、この家に住む新谷嘉朗容疑者(50)を緊急逮捕したと発表した。

逮捕容疑は自宅で2人の遺体を放置し、遺棄したというもの。捜査関係者らによると、この家は夫婦と息子の新谷容疑者の3人暮らし。夫婦の知人が「連絡がとれない」と近くの交番に届け出て、交番の警察官が家の中で2人の遺体を見つけた。

新谷容疑者をめぐっては以前に家族から「息子に暴力をふるわれた」「息子があばれているので現場を鎮めてほしい」などと6回にわたり通報があり、警察官が現場にかけつけたことがあった。家族が事件化を望まなかったため、同容疑者に警告し、高齢者虐待防止法に基づいて行政機関に通報したという。

※弊社YouTubeチャンネルで平塚事件について解説した動画を上げました。こちらもぜひご視聴ください。

5.引きこもり問題解決には第三者の介入が効果的である

引きこもりの問題解決は「本人の自主性ではない」と経験上断言できます。キーパーソンは本人ではなく家族なのです。

要するに引きこもりとは引きこもる場所があるから引きこもるわけで、長く引きこもっていられるのは家族が三度の食事、ともすればたばこ代すら与えているから引きこもっていられるのです。

つまり、引きこもりを長期化させているのは家族なのです。問題を軽視し先送りした結果が多くの悲劇を生んでいます。誤解・妄想が引き起こす悲劇に至るまでに解決したいものです。
第三者の介入
そのためには、第三者の介入が効果的です。

引きこもり当事者と家族だけでは解決に至りません。なぜなら、お互いに「甘え」が生じているからです。

6.成功する第三者の介入(インタベンション)

私がご家族と引きこもり当事者の間に介入し自立への道を促してきた中で、引きこもっている多くの方は「このままでは良くない」と理解していることがわかりました。また、引きこもり当事者はどうしたらこの不安な現状を打開できるのか・・・術が見当たらない、思考停止の状態であることも多くありました。そこで

① 引きこもった原因は何か(多くは人間関係のトラブルや生き甲斐のないつまらない毎日)

② 意欲的になれる提案(好きなこと・楽しいこと・得意なことを仕事にする働き方)

③ 「ここはご両親の家であり、引きこもり当事者の家でない」ことの再認識

④ 「君だけが悪いわけではない」と同調する

⑤ 引きこもり当事者と私との接点を探し、その分野でこちら側が引きこもり当事者に「力を貸してほしい」とお願いする

このようなテーマで自立への説得(人生の軌道修正)を試みていきます。

この説得において成功するケースは、親が引きこもり当事者に説得の逃げ場を与えない場合です。

失敗するケースは、親が「今日はこの辺で」と説得の中断を申し出て来たり、あからさまに無関心な態度(隣の部屋で寝ている)を親が取ったときでした。

つまり、ぶれない親の場合は成功し、ぶれる親の場合は失敗するということです。

7.引きこもる場所がなくなると自立へと歩き出す

引きこもり支援はご家族の覚悟にかかっています

介入(インタベンション)が成功し、引きこもり当事者を引き出しても約1か月程はホームシックから自宅に帰りたいと情緒不安定に陥ります。脱走でもして自宅に帰れば、これまで通り不自由のない暮らしができると“甘え根性”が湧き上がってくるようです。この甘え根性を断ち切れるのは親です(甘え根性にしたのも親ですが)。

誰もいない家
この場面で必要なことは、家族が自宅を留守に出来るかということです。

① 旅行にしばらく出かける
② ウイークリーマンションなどを借りる
③ 親戚や友人の家に身を寄せる

などして、自宅に帰ることを諦めさせ自立以外の選択肢を与えないことが重要です。

諦めるから次の道へと歩み始めると考えてください。
一か月ほどすれば、ホームシックも和らぎ、自立へと踏み出しています。
ドアを開けて外に出る
文献
1)Deguchi, Y et al. mDia and ROCK Mediate Actin-Dependent Presynaptic Remodeling Regulating Synaptic Efficacy and Anxiety. Cell Rep. 17(9), 2016 , 2405-17. 
2)斎藤環.ひきこもりはなぜ「治る」のか?―精神分析的アプローチ.筑摩書房,2012,p243.

中川健司 著者
中川健司
ブレスコーポレーション株式会社 代表取締役
一般社団法人どんぐりの会 代表理事
宅地建物取引士
依存症・神経症・うつを克服し社会福祉に貢献したい思いから社団法人どんぐりの会を立ち上げる。生きづらさの根本的解決のためのサポート実現を目指し、医療と連携したリハビリ施設ブレスコーポレーションを起業。最新機器や脳科学を取り入れながら発達障害の「特性緩和」、うつや双極性障害、神経症、依存症などの「根本的改善」をサポートする。
引きこもりのご相談を受け付けています。
お問合せのお電話、メールお待ちしております。

電話のお問合せ0120505149

施設ならびに相談拠点のご案内


ブレスコーポレーション株式会社
大阪府守口市滝井西町2-3-22吉岡第二ビル1階
Tel:0120-505-149